第15回 キャリア教育
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1. キャリア教育とは
1-1. キャリア教育とは
一般的には仕事・職業という意味合いで用いられることが多い
荷車が語源
道残る車輪の跡、轍
人生の道筋
キャリアには2つの意味がある
職務経歴や仕事そのものを指す
職業生活を含むさまざまな生活場面で個人が果たす役割を踏まえた働き方や生き方
「人が、生涯の中でさまざまな役割を果たす過程で、自らの役割の価値や自分と役割との関係を見出していく連なりや積み重ね」という意味で考えている
1-2. キャリア教育の歴史的変遷
1999(平成11)年12月に中央教育審議会より出された答申「今後の初等中等教育と高等教育の接続の改善について」
我が国の公文書に「キャリア教育」という文が初めて登場
精神的社会的自立の遅れという子ども達の育ちや働くこと・生きることへの関心・意欲の低下への対策として学校におけるキャリア教育の必要性が謳われた
働くことをめぐる子ども・若者の問題
社会的には2003(平成15)年に省庁の境界を超えた「若者自立挑戦プラン」として政策的対応がなされ 教育現場では中学校における職場体験の定着に示されるようなキャリア教育の隆盛へと展開 学校教育が職業についての教育をも担うこととなった
こうした背景から当初は職業教育に近い実践がキャリア教育実践として数多く見られた 同時に「結局は職業教育と同じ」「職場体験や外部講師による講演等イベントをすればいい」 といった誤解も多かった
現在では、キャリア教育は、特別なイベントや行事を行うことだけではなく、日常的な教育実践をキャリア教育の視点から見直すことにより実践の質の向上を図り、子ども達の社会的自立に必要な「生きる力」を育む生き方支援と考えられるようになっている
1-3. キャリア教育の理論的背景:キャリア発達の理論
スーパーは、自己をどのようにとらえるかという自己概念や、現実の世界とのかかわりとどのように折り合いをつけ統合していくかという観点を入れた、生涯にわたる職業的発達段階理論を提唱 https://gyazo.com/28062678645f97e18da5524bcdc32aba
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職業的発達理論をベースにしつつ、職業だけではなく、社会人・家庭人子ども・親等、社会において人が果たす役割全般を視野にいれた
キャリアの発達とは、社会的相互作用の中で、種々の社会的役割間のバランスを自分なりにとりながら自分らしい生き方を模索し実現していく、一生涯にわたるプロセス
2. キャリア教育を通して育成したい力
2-1. 社会的自立のために必要な力とは
キャリア教育のねらいとして、子ども達にどのような力をつけることが目指されているのだろうか
現在、社会で生きていく上で必要とされる様々な力の概念が提唱されている
産学の有識者が「職場や地域社会で多様な人々と仕事をしていくために必要な基礎的な力」として掲げた能力のこと
下記3つの能力12の能力要素から構成されている
「前に踏み出す力(アクション)」
主体性
働きかけカ
実行力
「考え抜く力(シンキング)」
課題発見力
計画力
創造力
「チームで働く力(チームワーク)」
発信力
傾聴力
柔軟性
状況把握カ
規律性
ストレスコントロール力
こうした能力を身につけてから社会に出てきてほしいという産業界の願いは、同時に産業界から教育への要請でもあろう
「社会人基礎力」は、現状では学校から社会への移行の出口である高等教育において取り上げられることが多い
初等教育や中等教育において身につけるべき能力をどのように考えればよいか
「社会人基礎力」に掲げられた能力の中には、高等教育段階のみでの育成というよりも、より早い発達段階から長い時間をかけて育むべき能力る数多く含まれている
各発達段階においても, 社会の一員となって生活する時を見据えたキャリア発達支援が必要
2-2. 勤労観と職業観
キャリア教育が提唱された当初のねらいは「職業観・勤労観を育む」(国立教育政策研究所生徒指導研究センター, 2002)
「職業や勤労についての知識理解及びそれらが人生で果たす意義や役割についての個々人の認識であり、職業勤労に対する見方・考え方、態度等を内容とする価値観」
職業遂行上必要な知識や技能を教えることのみならず、働くことにかかわる価値観の育成に焦点が当てられた
「4領域8能力」(国立教育政策研究所生徒指導研究センター, 2002) この職業観・勤労観の育成をベースにしつつ、より具体的に育てたい力として提唱されたのが
4つの能力領域と、各領域において2つの能力を例示
「人間関係形成能力」
自他の理解能力
コミュニケーション能力
「情報活用能力」
情報収集・探索能力
職業理解能力
「将来設計能力」
役割把握・認識能力
計画実行能力
「意思決定能力」
選択能力
課題解決能力
この能力論はまたたく間に学校現場に広がり、キャリア教育において育てたい力として多くの学校が4領域8能力を基盤としたねらいを立て、さまざまな取り組みを行った
2-3. 4能力8領域から基礎的・汎用的能力へ
4領域8能力をキャリア教育のねらいに据えた実践が展開するうちに、「4領域8能力をねらいに提堀えさえすればキャリア教育」というような、各学校や地域の特色や児童生徒の実態を前提としない画一的な運用が目立つようになった
同時に、4領域8能力が職業に直結した狭い領域のみに焦点を当てすぎていること、キャリア発達とは学校教育から社会への移行期のみにとどまらず、より長い、生涯にわたるライフ・スパンを視野に入れて構想されるべきであるとの反省点も浮上した(文部科学省, 2011)
「基礎的・汎用的能力」(中央教育審議会、2011)
こうした現状をうけて、キャリア教育を通して育成すべき能力として新たに提唱された
本答申においては、キャリア教育の基本的な方向性として次の2点が挙げられている
幼児期の教育から高等教育まで体系的にキャリア教育を進めること
その中心として、基礎的汎用的能力を確実に育成するとともに、社会・職業との関連を重視し、実践的・体験的な活動を充実すること
学校は、生涯にわたり社会人職業人としてのキャリア形成を支援していく機能の充実を図ること
「基礎的・汎用的能力」の内容
「人間関係形成社会形成能力」「自己理解・自己管理能力」「課題対応能力」「キャリアプランニング能力」の4つに整理されている
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3. 各学校におけるキャリア教育
3-1. 小学校におけるキャリア教育
1年生から6年生までの多方面にわたる発達的変化の中で、社会的自立の基盤を築いていく時期
キャリア発達課題も、学年に応じて変化する(文部科学省, 2011)
1. 低学年
小学校生活への適応、身の回りの事象への関心を高めること、自分の好きなことを見つけて、のびのびと活動すること。
2. 中学年
友達と協力して活動する中でかかわりを深めること、自分の持ち味を発揮し、役割を自覚すること
3. 高学年
自分の役割や立場を果たし、役立つ喜びを体得すること、集団の中で自己を活かすこと
こうした各発達段階に応じたキャリア発達課題を踏まえ、小学校段階では、学校における係活動や遊び、家での手伝い、地域活動の中で自らの役割を果たす意欲と態度を育むことが重要とされている(文部科学省, 2011)
3-2. 中学校におけるキャリア教育
中学校におけるキャリア教育
学校教育全体を通して行う必要がある
2017年度の全国公立中学校の職場体験活動実施率(1日以上)は98.6%
職場体験に期待される効果(文部科学省, 2005)
職業に関する理解を深める
地域への関心の育成や自己理解の深化
コミュニケーション能力の向上
他多方面にわたる効果
職場体験を充実したものにするためには、事前事後指導の充実が欠かせない
マナー講座やお礼状の指導といった体験学習に付随する社会的基礎知識に関する指導にとどまらず、1年間、もしくは3年間の学習と職場体験活動を有機的につなぐよう努めることが重要であろう(長田, 2016)
3-3. 特別支援学校におけるキャリア教育
特別支援教育においては、従来、障がいのある子ども達の社会的自立の困難さは学校段階においても強く意識されており、主に知的障がい部門において産業現場等における実習や作業学習が「職業教育」として行われてきた経緯がある 2009(平成21)年告示の特別支援学校高等部学習指導要領において職業教育とキャリア教育の充実が要点として示されて以来、普通校に一歩遅れてキャリア教育へ関心が向けられ、現在も校内研究課題としても取り上げられている
当初こそ教師たちの間からは、「職業的自立が難しい重度重複の児童生徒を対象とするキャリア教育といわれても、イメージがわかない」等の戸惑いの声が聞かれたが、
知的障がいを有する子どもを対象とするキャリア発達支援の授業分析や、各障がい種の授業実践報告(菊地, 2012)、
発達障がい・知的障がいのある児童生徒の自己理解を育むキャリア教育プログラム等(小島・片岡, 2014)、
児童生徒の障がい特性に応じた工夫のもとに、子ども達の社会的自立を目指したキャリア教育実践が積み重ねられている(渡部, 2014:島田, 2016;鈴木, 2016他)
特別支援教育においては、特に、「自立」のとらえ方に留意する必要 一般に「自立」とは独力で社会生活を営むことを意味することが多い
しかし、特別な教育的ニーズのある子どもの「自立」の捉え方そのものを見直す必要があると思われる
独力にこだわらない
他者からのはたらきかけへの反応を返す
或いは他者とかかわりながら生活すること
他者からの援助を受け入れつつ自文ありの生活を立ち上げること等
4. 教育・学校心理学とキャリア教育
教育・学校心理学は、生涯に渡る学びと育ちを心理学の理論と方法によって検討する学問
人生は学びと育ちの連続
キャリアは人生そのもの
キャリア教育の基盤となる学問